AI企業オルツの「上場廃止目前で株価50円」が示すもの

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オルツ事件の概要と株価50円前後で推移する現状

AIスタートアップのオルツ(証券コード: 260A)は、2024年10月の東証グロース市場上場から半年あまりで売上高の大幅過大計上が発覚し、上場廃止の危機に陥りました。第三者委員会の報告によれば、2021~2024年の売上高の大半が架空計上だったことが判明し、東証は7月25日付で同社株を監理銘柄(審査中)に指定しています。上場廃止がほぼ確実視される中でも、オルツ株価は直近で約50円前後に収束し、大きな下落が一旦止まった状態です。この異例とも言える状況の背景には、いくつかの要因が絡んでいると考えられます。

  • 個人投資家の短期売買と投機: 株価急落後の50円前後という水準は、多くの個人投資家にとって「超低位株」として認識され、短期的な値幅取りを狙う投機マネーが集まりやすくなります。倒産リスクを承知で“一か八か”の買いが入ることで需給が均衡し、一定の水準で下げ止まっている可能性があります(実際、2020年に経営破綻したNutsでも、上場廃止直前に株価1円で大量の投機的売買が行われました)。オルツ株についても、「50円はさすがに安すぎる」という心理的な底値感からくる買いが、さらなる下落を食い止めていると考えられます。
  • 大口株主(VCや提携企業)の売却圧力低下: オルツの株主にはジャフコやSBIなどVC、大手企業ではキーエンス、凸版印刷、エムスリーといった名前が並んでいました。こうした大口株主は上場前からの戦略的出資であり、短期的な株価動向で慌てて売却に動く可能性は低いとみられます。実際、今回の不正判明後も、大手株主が市場で大量売却したという情報はなく、主体的な売り手は主に一般個人投資家でした。大口株主がほとんど売らず静観していることで、市場に出回る浮動株が限られ、50円付近で売買が細る要因となっています。
  • 信用取引の状況(空売り不在による下支え): オルツ株は信用買いは可能ですが、制度上の貸借銘柄ではなく空売りが困難な銘柄でした。そのため、不正発覚による株価下落局面でも空売りの売り圧力が限定的で、需給の急激な悪化がある程度抑制されたと考えられます。信用買いの残高も7月末時点で数十万株規模に過ぎず、追証に伴う強制売りも峠を越えた模様です。新規の空売りが入らない環境では、悪材料が出揃った後に売りが一巡しやすく、結果として株価が極端にゼロ近くまで暴落せず一定水準で下げ渋る展開になった可能性があります。
  • 残存企業価値への思惑: オルツは上場時に想定時価総額約170億円、初値570円という大型IPOでした。上場直前にはキーエンスとの提携発表や生成AI関連の話題で注目を集め、昨年11月には株価700円台まで上昇したとも伝えられます。不正により業績の信頼性は失墜しましたが、一方で大量の資金調達を行っていた事実もあります。実際、公開情報によれば2024年末時点で現預金約46億円を保有していたとのデータもありました。仮に過大計上分を除いても、手元資金など純資産が数十億円規模で残っている可能性があり、市場では「現金資産などを考えれば今の株価は割安ではないか」という見方も一部にあります。上場廃止後も事業継続の意思が表明されているケース(例えばグレイステクノロジーは「上場廃止後も事業継続」を表明)では、将来的な再建や他社による救済買収の期待がわずかながら株価を下支えすることがあります。オルツも不正こそありましたがAI関連技術自体には一定の評価があり、「どこかが技術や事業を引き取るのでは」との思惑が投資家の間で皆無ではないようです。実際、類似ケースとして2018年に不適切会計で上場廃止となった食品スーパーのドミーは、事業価値自体は毀損されなかったため株価が下落後600円程度で落ち着き、その後事業パートナーのバローHDが1株1,917円でTOBを実施し株主救済した例もあります。オルツについても「最悪のゼロ円にはならないのでは」という楽観的観測が、50円という水準を維持させている一因とも考えられます。

一般投資家と機関投資家の売買動向・貸借状況の分析

一般個人投資家は、今回の不祥事発覚直後にパニック的な売りを出し、株価は4月末には前週比19%安の337円(ストップ安水準)まで急落しました。昨年11月の高値から半値以下となったこの局面では、SNS上でも個人投資家の狼狽売りの様子が散見されました。しかし、その後の株価推移を見ると個人の投げ売りは概ね終息し、前述のような投機的な短期売買が中心になっているようです。値幅取りを狙うデイトレーダー層にとって、50円前後の低位株は値動き次第で数割の利益も望めるため、出来高は細りつつも取引自体は続いています。

一方、大口投資家・機関投資家の動向は比較的静かなものです。オルツの創業者である米倉社長は約17%の株式を保有する筆頭株主(2024年末時点)であり、その他VC勢や提携先企業も上位株主に名を連ねていました。これらの大口は上場後すぐの不正発覚という事情もあり、ロックアップ(一定期間の売却制限)やレピュテーションリスクの観点から、市場での安易な売却を控えているとみられます。実際、キーエンスやエムスリーといった企業株主が今回の混乱で持ち株比率を減らしたという報道はなく、依然として主要株主に留まっているようです。機関投資家は早い段階で評価損リスクを織り込んでおり、むしろ上場廃止後の動向(債権回収や損失処理)に関心が移っている段階でしょう。

貸借状況については前述の通り、オルツ株は制度信用取引の売建(空売り)が事実上できない銘柄でした。そのため市場参加者は現物と信用買いが中心となり、信用買い残高も数十万株規模と限定的です。証券金融会社のデータによれば、7月28日時点で貸株残高0株、融資残高約25万株となっており、信用買いで保有した投資家が一定数残っています。もっとも、整理銘柄指定が目前に迫れば証券会社は信用取引の決済を求めますので、信用勢の整理売りもいずれ発生します。ただ、その規模は過去の類似ケースと比べ大きくないため、市場への影響は限定的と予想されます。逆日歩(品貸料)も発生し得ない状況であり、空売り筋による価格吊り下げも起こらないため、需給は落ち着いた状態が続いていると言えるでしょう。

整理銘柄指定後の売買停止と株価推移のパターン

東京証券取引所では、上場廃止が決定すると「整理銘柄」に指定され、原則1か月程度の売買猶予期間の後に上場廃止となります。この整理銘柄期間中は新規の信用取引が停止され、基本的に投資家は決済目的の売買のみを行うことになります。過去の事例では、この期間に入ると出来高が激減し、株価も終値数円~数十円程度まで沈む傾向があります。

  • DDS(ディー・ディー・エス)の例では、不適切会計問題で特設注意市場銘柄の指定を経て、2023年8月4日付で上場廃止となりました。東証が整理銘柄指定と廃止決定を発表した直後、DDS株は上場来安値の13円まで急落し、その後も売り材料視されて最終的に終値8円で取引を終えました。整理銘柄指定前後でここまで低位になると、買い手不在となり板の買い気配がゼロになることすらあります。
  • グレイステクノロジーは架空売上計上が発覚し、2022年2月に整理銘柄指定を経て上場廃止となった例です。同社株は不正発覚前には一時1,000円超で推移していましたが、発覚後に急落し2022年2月末の最終取引日は18円となりました。月足チャートは「右肩下がり」の陰線続きで、発覚後に買った投資家の大多数が損失を被ったと指摘されています。
  • Nuts(ナッツ)は2020年に経営破綻し、整理銘柄指定を経て上場廃止となったケースです。破産型の上場廃止では最終的な株価は1円が定着し、Nutsでも例に漏れず整理期間中ずっと1円前後で推移しました。最終売買日には板の買いが完全に消滅し、事実上の無価値で取引を終えています。破綻企業の場合、整理銘柄期間は市場参加者が“紙くず”になる株券を処分する最後の機会となるため、Nutsのように1円で大量の売買が行われる一方、終了間際にはもはや売るにも売れない状況に陥ります。
  • その他の例: Food Planet(2017年に粉飾発覚)、テラ(2022年破産)なども整理銘柄期間中に低位で推移→最終売買日付近で出来高枯渇というパターンでした。上場維持を断念した企業株は、基本的に時間の経過とともに投資価値が希薄化し、最終的には形式的な価格(数円~十数円、破綻なら1円)で取引が終わるのが通例です。

今回のオルツも、仮に近日中に上場廃止が正式決定すれば整理銘柄指定→最終売買日のカウントダウンが始まります。その局面では、一時的に50円前後で踏みとどまっている株価も更なる下振れが避けられないでしょう。過去のDDS同様に二桁円から一桁円台への低落、最終的には10円未満で終了といったシナリオも考えられます。ただし、ドミーのように事業価値が残る場合は低位で安定しやすい点も見逃せません。事実、ドミーは有報未提出で2018年3月に上場廃止となりましたが、長らく横ばいだった株価(約2,500円)が発覚後4分の1の600円前後に下落した後は安定推移しました。その後事業パートナーによる支援が表面化し、株主は最終的にTOBによって救済されています。このように整理銘柄=必ずしも最終的に1円とは限らず、事業に将来性があれば一定の水準で買い支えられるケースもあります。

不正会計で上場廃止に至った企業の共通点と最終株価の傾向

過去10年を振り返ると、日本市場でも循環取引や売上過剰計上による上場廃止は珍しくありません。それら企業の軌跡を比較すると、発覚から廃止までにいくつかの共通点が浮かび上がります。

  • 急成長神話と虚偽の業績: オルツは「生成AI」「デジタルクローン」の先端分野で注目され、5年で時価総額1兆円を公言する野心的ベンチャーでした。同様に、グレイステクノロジーは上場後に高成長を期待され、達成困難な売上ノルマを課す中でトップダウンの粉飾が横行しました。グレイスでは「業績を取り繕って株価を吊り上げ、株式売却益で架空売上を埋め合わせる」という欺瞞的経営が続いていたと報じられています。急成長のプレッシャーから生まれた虚偽の業績拡大という点で、オルツもグレイスも似通っており、不正会計企業の多くに当てはまるパターンです。
  • 上場後わずかな期間での不祥事発覚: オルツはIPOから半年で粉飾疑惑が表面化し、わずか決算1期分の開示しかない段階での失墜となりました。同様に、2023年に上場廃止となったDDSは特設注意指定から1年足らずで見切りをつけられ、2017年のFood PlanetはIPOから約2年で破綻しています。上場後短期間での会計不正露見は、監視体制強化もあって近年増えており、市場や取引所の対応も迅速化しています。特に、今回オルツは上場審査時の誓約違反(虚偽記載)にも問われており、取引所も即時の上場廃止判断に傾いています。
  • 株価の推移パターン: これら不正企業の株価推移には明確な傾向があります。発覚前には成長期待から高値を付けているものの(オルツもIPO後に材料出尽くしで一時下落後、提携ニュースで再度上昇する局面がありました)、疑惑浮上~報告書公表の段階で急落し、その後は整理銘柄期間に向けて低位で推移します。グレイステクノロジーは不正発覚前の2021年初頭に1,000円台だった株価が、粉飾判明後に年末までに100円台以下に暴落し、翌2月の上場廃止時には18円まで落ち込んでいます。DDSも2022年初めには200円前後でしたが、特設注意指定を経て整理銘柄指定時には10円台まで低下しました。オルツも4月に疑惑が報じられて以降、80円、60円、そして50円と段階的に下値を切り下げてきており、今後の正式な廃止決定に際してさらに一段の下落が起こる可能性があります。
  • 企業のその後と株主への影響: 不正会計で上場廃止となった企業の事後ストーリーは様々ですが、株主にとって厳しい結果になる点は共通しています。事業継続型(グレイステクノロジーやDDS)の場合、上場廃止後も会社組織は存続し再建が図られるケースがあります。しかし株主は未上場企業の株式を持ち続けることになり、流動性は皆無、配当も期待薄という状況に置かれます。実際、グレイスやDDSでは上場廃止後初の株主総会で経営陣刷新や減資が行われましたが、既存株主の経済的利益が回復した例はありません。一方、破産型(Nutsやテラ)の場合は、破産手続きの中で残余資産があれば配当(分配)されますが、債権者優先で株主への配当はゼロとなるのが通例です。Nutsのように最終的に株券が文字通り紙切れとなる例もありました。ドミーのようなTOB救済型は極めて例外的で、これは同社が不正発覚後も黒字営業を続けていた特殊事情によるものです。総じて、不正会計により上場廃止となった企業の最終株価は数円~数十円に沈み、株主価値は大半が毀損して終わっています。

まとめ – 「50円の攻防」が映す市場心理と教訓

オルツ株が上場廃止目前にして50円前後で踏みとどまっている現象は、投資家心理と市場メカニズムの興味深い交錯を物語っています。一見すれば「ほぼ無価値の烙印を押された株に、なぜ50円もの値が付くのか」と不思議に映るかもしれません。しかし、その背景には本稿で述べたような投機資金の流入、主要株主の静観、空売り不在による下支え、潜在的な事業価値への期待といった複合要因が存在します。

過去の不正会計銘柄と照らし合わせると、50円という価格も一時的な幻影である可能性が高く、いずれ市場の判断はシビアに下されるでしょう。実際、東証による整理銘柄指定が行われれば否応なく退場に向けた最終局面に突入します。そこでは投機マネーも引き上げられ、最終的な株価は他の事例同様に一桁円台に沈む公算が大きいです。仮に最終売買日の終値が1円でなくとも、それは企業が存続し将来何らかの価値を生む可能性をわずかに市場が織り込んでいるだけであり、株主にとって報われる水準ではありません。

「粉飾決算に手を染めた会社の末路」を振り返るとき、共通して浮かぶのは経営陣のモラルハザードとガバナンスの欠如です。不正会計の発覚により信用は地に落ち、株価は暴落、上場廃止という最高の信用市場からの追放という厳しい結末が待っています。オルツのケースは、AIバブルの中で生まれた新興企業でさえ例外ではなく、むしろ急成長を焦るあまり基本をおろそかにしたガバナンス違反が明るみに出た教訓と言えます。不正会計を未然に防ぎ、健全な成長を遂げるには、企業内部の統制強化と投資家・取引所の厳しい目が不可欠でしょう。今回50円前後で推移するオルツ株価は、市場参加者による最後の綱引きとも言えますが、その行方は過去の似た事例が示す通り、既に決して明るいものではないことを肝に銘じる必要があります。