なぜ投資家は「逆張りバカ」になってしまうのか?

未分類

「安い時に買って、高い時に売る」は投資の基本とよく言われます。しかし、それを履き違えて「下がっている株をとにかく買う」行動に走ってしまい、気づけば損失を抱える――こんな“逆張りバカ”な投資家が後を絶ちません。 実は私たち個人投資家の心理には、そうした逆張り行動を誘発する様々な認知バイアス(思い込み癖)が潜んでいます。さらにSNS上の情報や集団心理もそれに拍車をかけ、「みんなとは逆を行く俺は賢いんだ」という根拠なき自信に繋がることもあります。

まずは、逆張り志向に陥りやすい人間の心理とバイアスをユーモアを交えて分析します。「あるある、やっちゃった」と思い当たる読者も多いかもしれません。そして後半では、逆張りが裏目に出た実際のエピソードを日本株を中心に振り返りましょう。SNS掲示板やX(旧Twitter)で見かける逆張り思考の典型例も織り交ぜながら、痛い失敗談から学ぶストーリーをお届けします。

個人投資家を惑わす心理バイアスの数々

投資家が「逆張りバカ」になってしまう背景には、誰もが持つ心理的なクセ(バイアス)があります。ここでは代表的なものを見ていきましょう。

損失回避バイアス:損は嫌だ!で売れない心理

人間は損失を利益より強く嫌う傾向があります。行動経済学のプロスペクト理論によれば、同じ金額でも利益の喜びより損失の痛みの方が2倍以上大きく感じられるといいます。例えば、含み益が出た株は「早く利確しよう」と直感に従って売ってしまいがちなのに、含み損を抱えた株は「損失確定したくない」と思って売れずに持ち続けてしまう経験はありませんか?

この損失回避バイアスに囚われると、「下がって含み損になった株を売れない」「むしろナンピン(平均買い下がり)して平均取得単価を下げれば助かるかも」といった行動に走りがちです。結果として塩漬け株が増え、ポートフォリオ全体が身動き取れなくなる悪循環に陥ります。損切りできないのは心理的に当然ともいえますが、損失をこれ以上広げないためにも意識して断ち切る勇気が必要です。

確証バイアス:都合の良い情報しか信じない

確証バイアスとは、自分に都合の良い情報ばかり集め、都合の悪い情報を無視してしまう心理傾向です。株式投資では誰しも「この銘柄は上がる」と信じて買いますが、その後にネガティブなニュースや業績悪化の兆候が出ても、確証バイアスが強いと「そんなの一時的」「すぐ回復するはず」と耳を貸さなくなります。

例えばSNS上でも、保有銘柄にポジティブな材料が出ると大喜びでリツイートするのに、ネガティブなレポートや警告的な投稿は「デマだ」「売り煽りだ」と決めつけて無視する、といった行動はないでしょうか。こうした偏った情報収集は危険で、冷静な判断を曇らせて大損につながりかねません。自分の信じたいことだけでなく、敢えて反対意見にも目を向ける姿勢が大切です。

正常性バイアス:「まさか○○が潰れるわけが…」という油断

人は自分にとって都合の悪い現実を直視せず、「まあ大丈夫だろう」と思い込む傾向があります。これを正常性バイアスといいます。投資の場面でも、業績が悪化しているのに「そのうち元に戻る」と楽観視してしまったり、大企業だから潰れないと根拠なく信じたりして、適切なリスク管理を怠ってしまうケースが見られます。

後述しますが、2010年に経営破綻した日本航空(JAL)では、多くの個人株主が「JALは日本を代表する会社だから大丈夫」「これまでも何とかなったんだから今回も復活するはず」と信じて株を持ち続け、結果的に株券は紙くず同然になってしまいました「まさか上場廃止なんてあるわけがない」という思い込みは何の根拠もなく、痛い損失を招きかねないのです。常に最悪のシナリオも頭に入れておくことが、投資では重要になります。

アンカリング効果:過去の高値に囚われる罠

アンカリング効果とは、最初に得た数値(アンカー)に引っ張られて判断が歪む現象です。株式投資では、過去の株価が一種のアンカーになりやすいです。「この株、昔は7,000円だったのに今3,000円まで下がっている。過去の水準から見て随分安いから、いずれまた7,000円を超えるだろう!」と飛びつきたくなる心理ですね。

しかし、その「割安だ」という判断は過去の価格だけを基準にした勘違いかもしれません。7,000円を再び超える保証などどこにもないのに、つい過去の高値に心がアンカー(錨)で繋がれてしまうのです。本来は株価が安いか高いか判断する際、過去の株価ではなく、その企業の価値や将来性を見なくてはいけません。このアンカリングの罠に陥ると、「平均回帰するはず」「元の値段に戻るだろう」という希望的観測だけで買い支えてしまい、下落トレンドに逆らって損失を拡大させる危険があります。

ギャンブラーの誤謬:そろそろ反転するはず…は幻想

ギャンブラーの誤謬(ごびゅう)とは、「偶然の事象にも法則性があると思い込んでしまう誤解」のことです。コイン投げで5回連続表が出ると「次は裏が出るはず」と感じてしまうあれです。しかし実際には確率は毎回独立しており、連続で表が出た後も表が出る可能性は同じです。

株式相場でもこれと似た心理が働きます。急騰が続くと「そろそろ下がるんじゃないか?」、暴落が続くと「もうそろそろ底打ち反転するだろう」と考えがちですよね。その気持ちは分かりますが、過去の値動きとこれからの値動きは本質的に無関係だという事実を忘れてはいけません。トレンドには思った以上に「そのまま続く力」があるものです。例えば下降トレンドでは、安易な逆張り買いは「落ちるナイフを掴む」ようなもので、予想以上に下落が長引けば大ケガをしかねません。

もちろん永遠に下がり続ける株もなければ、上がり続ける株もありません。いずれは反転しますが、その「いずれ」を当てるのは至難の業です。短期勝負をするなら「下降局面では素直に売りに徹する」「上昇局面では素直に買いで乗る」という順張りスタンスの方が得策な場面も多い、というのが相場の真実です。

SNSと集団心理が生む「逆張り」あるある

SNS時代の投資は常に情報洪水。 個人投資家同士がSNSや掲示板で情報交換できるのは良いことですが、一方で集団心理(ハーディング効果)によって非合理な行動が生まれることもあります。人は周囲の大勢がある行動を取っていると、自分もつい同じ行動をしてしまいがちです。株式市場でも、「みんなが買っているから自分も買う」「みんなが売っているから怖くて売ってしまう」といった行動がSNSを通じて伝播し、過剰反応が増幅されるケースがよく見られます。

さらにSNS特有の現象として、「逆張り発言で目立ちたい人」も存在します。いわゆる逆張りコメントと呼ばれるもので、みんなが称賛している銘柄をあえて酷評したり、逆に総悲観の銘柄を「今が買い!」と煽ったりする投稿です。本人は「俺は人と違う意見を言えるんだ」という優越感に浸れるかもしれませんが、受け手の初心者が真に受けてしまうと悲劇です。SNS上ではしばしば「〇〇はオワコン!今さら買うやつは情弱(笑)」「他人と逆のことをやれば勝てるってバフェットも言ってるし? だから暴落中の今こそ〇〇株全力買い!」なんて極端な書き込みを目にします。こうした浅はかな逆張り思考の煽りに乗せられると、本当に「バカを見る」結果になりかねません。

あるあるSNS逆張り発言:「みんなが売ってる今こそ○○買い増ししました!人の行く裏に道ありって言いますし😁」
あるあるSNS逆張り発言:「はい養分乙w こんな高値掴みするとか逆神すぎて草」

読者の皆さんも、SNSでこうした投稿に出会った経験が一度はあるのではないでしょうか?相場が荒れる局面ほど玉石混交の情報が飛び交います。多数派の声が常に正しいとは限らないですが、かといって逆張りが常に賢いとも限らないのが難しいところです。大事なのは、流れてくる情報をうのみにせず「自分の頭で考える」ことに尽きるでしょう。

逆張りが裏目に出た痛い実例たち

続いて、実際に「逆張りして失敗した」有名なエピソードを見ていきましょう。身をもって痛感した投資家も多い、教訓たっぷりの事例です。

JAL株が紙くず同然に…「大企業だから大丈夫」の誤算

日本航空(JAL)の破綻劇は、逆張り思考の危うさを物語る代表例です。JALは日本を代表する大企業でしたから、リーマンショック後の経営危機時でも多くの個人投資家が「国策企業だし潰れるはずがない」「いずれ業績も株価も持ち直すだろう」と信じて株を保有し続けました。しかしそれは正常性バイアスに過ぎませんでした。2010年1月、JALは会社更生法の適用を申請し事実上の経営破綻。発行済み株式は100%減資となり既存株主の持株価値はゼロ(文字通り紙くず)になってしまったのです。

JAL株は上場廃止決定後、株価1円という無残な最安値を記録しました。配当狙いや優待目当てで持っていた人も含め、多くの個人株主が大損害を被りました。当時を振り返ると、「やっぱり株って怖い…」という声も聞かれましたが、本当に怖いのは自分自身の心の弱さだったのかもしれません。赤字続きで危ない兆候はいくらでもあったのに、「JALほどの会社が潰されるわけがない」「いつかまた復活するだろう」とリスク管理を怠ったツケが回ってきた形です。「大企業だから安心」という神話は、投資の世界では通用しないことをJAL問題は示しました。

皮肉にも、その後JALは公的支援を受けて再建され数年後に再上場しましたが、旧株主には一切救済なしでした。結局、「信じて持ち続ければ報われる」という希望は叶わないまま終わったのです。逆張りで買い増ししていた人ほど大きな損失を抱え、「株はゴミだ!」と嘆いたというエピソードも残っています。この事例から学べるのは、どんな銘柄でも状況次第では切り捨てが肝要ということ、そして思い込みで逆張りする怖さでしょう。

AIベンチャー「オルツ」、10ヶ月で転落の衝撃

最近では、AI議事録サービスで注目されたスタートアップ企業オルツ(アルト)」の急転直下の破綻劇が話題となりました。オルツは2024年10月に東証グロース市場に華々しく上場し、「大型AIベンチャーの雄」ともてはやされましたが、その約10ヶ月後の2025年7月末、なんと民事再生法の適用を申請して倒産、8月末で上場廃止が決定しました。上場からわずか一年足らずでの退場は、マーケットに大きな衝撃を与え「オルツショック」とも呼ばれています。

なぜここまで急速に転落したかというと、第三者委員会の調査で売上高の9割超が架空計上という不正会計が発覚したからです。要するに粉飾決算で会社の実態を良く見せかけていたわけですが、上場当初は多くの投資家がそのからくりに気付かず“AI銘柄ブーム”の熱狂も手伝って株価は高値を付けました。ところが疑惑が報じられるや否や株価は急落し、それでも「下がりすぎだ、今が逆張りのチャンス」と考えた投資家も一部にはいたようです。しかし残念ながら今回は単なる一時的な業績不振ではなく会社の中身そのものが崩壊していたのです。結局、オルツ株は監理銘柄(整理銘柄)指定を経て最終的な価値はほぼゼロとなる見通しです。

このケースは、「平均回帰するだろう」「一度上場できたくらいだから大丈夫だろう」という正常性バイアスやアンカリングが通用しない典型例でした。むしろ本質的な価値がゼロのものは最終的にゼロにしかならないという当たり前の事実を思い知らされた形です。SNS上でも、オルツの不正疑惑が浮上した際に「絶好の押し目買い!」と逆張りを煽る投稿が一部見られましたが、結果的には非常に危険なミスリードでした。どんなに流行りのテーマ性がある銘柄でも、ファンダメンタルズが崩壊すれば救えない――逆張り派にとって辛い教訓となったでしょう。

米国事例:逆張りショート勢の悲劇

日本株ではありませんが、米国市場でも逆張りのリスクを示す興味深い出来事がありました。2021年初頭のGameStop株狂騒です。この時は個人投資家たちがSNS(Reddit)で結集し、機関投資家の空売り(下落見込みポジション)に対抗してGameStop株を買いまくり、株価を数十倍に高騰させました。結果、「順張り」で群衆に乗った個人投資家が大儲けし、逆に「逆張り」で空売りしていたヘッジファンド勢が数千億円規模の損失を出すという事件になりました。これは極端な例ですが、トレンドに逆らう怖さを象徴するエピソードとも言えます。逆張り=常に勝者とは限らず、状況次第で市場の波に飲み込まれてしまうことを物語っています。

「逆張りバカ」にならないために

ここまで、人間の心理バイアスやSNSの影響がいかに私たちを安易な逆張りへ誘い込み、「安物買いの銭失い」状態にしてしまうかを見てきました。では、どうすれば賢くこの誘惑と付き合えるのでしょうか?

まず大切なのは自覚することです。自分も例外ではなくバイアスに陥ると知れば、「損切りしたくない気持ち」が湧いたときに「これは損失回避バイアスかも?」と立ち止まれます。同様に、「この材料は無視、だってこの株は絶対上がるはずだから!」と思ったら確証バイアスを、「〇〇社は有名企業だから大丈夫」と感じたら正常性バイアスを疑ってみるのです。

また、事前のリサーチと計画も重要です。値下がりした株を買うにしても、「なぜ安いのか」「本当に価値が見合っているのか」を財務やニュースで調べ、自分なりの根拠を持つようにしましょう。なんとなく雰囲気で「下がってるからお得!」では、それは単なる勘違い逆張りに過ぎません。加えて、購入前に損切りラインや投資期間の目安を決めておくと、いざという時に感情に流されにくくなります。

最後に、順張り(トレンドフォロー)の良さも認めましょう。逆張りが常に悪いわけではありませんが、強い上昇トレンドに逆らって空売りしたり、下落トレンドに逆らって早過ぎる押し目買いをすることが、どれほど危ないかは歴史が示しています。時には「人の行く方に道あり」つまり素直にトレンドに乗る方が簡単で利益につながるケースも多いのです。

逆張りか順張りかに固執するより、柔軟な発想で相場に向き合いたいですね。自分の中の「逆張りバカ」的な衝動を客観視し、冷静な判断力を磨くことが、初心者から中級者への大きな一歩となるでしょう。健闘を祈ります!