近年、日本市場では親子上場の解消が相次いでおり、2024年から2025年にかけてこの動きは加速しています。実際、2023年には親子上場解消に向け少なくとも23社が上場廃止手続きを行い、親子上場状態の上場子会社数は2014年の全上場企業の9.5%から2022年には6.8%まで低下。それでも2023年3月時点でなお227社が親子上場の状態にあり、市場改革やガバナンス強化の流れの中でさらなる再編期待が高まっています。東証も2023年末に親子上場企業に対し「上場子会社を持つ意義や独立性確保の説明」を求める方針を示し、またアクティビスト(物言う株主)も親子上場解消をターゲットに積極的な提案を行うケースが増えています。こうした背景から「親子上場解消トレード」への期待感も市場で高まっており、2024年にはNTTによるNTTデータのTOBやイオンによるイオンモール&イオンディライトの完全子会社化などビッグニュースが相次ぎました。2025年もさらなる親子上場解消の波が来るとの見方が広がっています。
本記事では、親会社が一定以上の持分を保有しつつ未だ完全子会社化に至っていない上場子会社に注目し、今後親会社によるTOB(株式公開買付)で非上場化される可能性が高い銘柄を独自にランキング形式で紹介します。ランキング作成にあたっては、次のような評価軸を総合的に考慮しました:
- 親会社の持株比率(支配力の大きさや意思決定への影響度)
- 子会社の時価総額・業績・成長性(親会社から見た買収メリットや将来性)
- 親子間のシナジーの強さ(事業の一体性や補完関係の度合い)
- 市場での流動性(浮動株比率の低さや株価純資産倍率(PBR)の割安度など)
- 親会社側のガバナンス改善意識(業界内動向やアクティビストからの圧力の有無)
以上を踏まえ、投資家目線で「TOBによる完全子会社化が近い将来起きても不思議ではない」有望銘柄を厳選しました。それでは早速、ランキング第5位から発表していきます。
第5位:住友理工(5191) – 自動車部品大手、低PBRで再編機運も
住友理工(5191)は自動車向けゴム・樹脂部品を手掛ける大手メーカーで、旧東海ゴムを源流にもつ会社です。親会社は大手電線メーカーの住友電気工業で、同社が約49.5%の株式を保有する筆頭株主となっています。住友電工グループの一員として自動車用ホースや防振ゴムなどを世界展開し、売上規模は連結4,000億円超にのぼります。EVシフトが進む中で住友電工本体の自動車関連事業(ワイヤーハーネス等)とのシナジーも期待され、グループ戦略上の重要性は高いと言えるでしょう。
投資指標面でも魅力的で、PBRが1倍を下回る割安水準に放置されている点が注目されます。利益面でも黒字基調を維持しており、住友電工にとっては株式交換やTOBで完全子会社化しやすい条件が揃いつつあります。実際、住友電工は2023年に日新電機やテクノアソシエなど他の上場子会社を相次ぎTOBで完全子会社化する動きを見せており、グループ再編の流れが加速中です。住友理工は住友電工が抱える残りの上場子会社の一つであり、グループの事業選択と集中の観点から次の再編候補になる可能性は十分にあるでしょう。
もっとも、親会社の住友電工は既に約50%近い株式を保有して実質的に経営を支配しているため、市場での流動株は限定的です。親子上場の弊害として指摘される少数株主との利益相反リスクも内在している状況であり、いずれ住友理工側の独立性確保か完全子会社化かの決断を迫られる局面が来るかもしれません。老舗の自動車部品メーカーとして培ってきた技術力やグローバル展開力は親会社にとっても重要な資産であり、株価の割安感を考えればTOBによる株式取得コストも合理的と判断されるでしょう。業界再編や住友電工のガバナンス意識の高まり次第では、住友理工が突然のTOB報道でストップ高という展開も十分あり得ると見られます。
第4位:住友電設(1949) – 親会社が動いた電工子会社、次なるTOB本命?
住友電設(1949)はプラントやビルの電気設備工事を幅広く手掛ける総合工事会社で、親会社の住友電気工業(住友電工)が発行済株式の50%以上(議決権ベースで約50.9%)を握る上場子会社です。住友電工グループの一角としてインフラ・設備分野を担い、国内外で堅調な業績を上げてきました。2023年度は売上高392億円(前期比+12%)、営業利益30.8億円(同+166%)と大幅な増収増益となり、足元の利益水準も高まっています。それにも関わらず、株価は予想PER約10倍台と依然割安で、PBRも1倍未満に低迷する状況です。
こうした「好業績なのに株価低迷」という状況は、親会社から見ればTOBによる買い増しの好機とも言えます。事実、住友電工は前述の通り他の子会社である日新電機やテクノアソシエを2023年に連続TOBで完全子会社化すると発表し、市場を賑わせました。その際、投資家の間では「次は住友電設ではないか」との思惑が高まり、TOB期待から株価が急騰する局面も見られたほどです。住友電工に残る数少ない上場子会社である住友電設は、グループ事業再編の仕上げとして次なるTOB本命候補と目されても不思議ではありません。
さらに、住友電設にはアクティビストの影もちらついています。同社に対してはマネックス系の投資ファンドが配当方針の改善を求める株主提案を行ったことが報じられており、少数株主の権利主張が強まりつつあります。これは裏を返せば、親会社による迅速な対応(例えばTOBでの完全子会社化)が求められるプレッシャーとも言えるでしょう。住友電工としても、自社グループ内で資本効率を高めガバナンス問題を解消するためには、住友電設の上場維持による「利益相反リスク」を放置しにくくなっています。電力インフラ投資拡大や脱炭素関連需要で追い風が吹く同社を完全子会社化で取り込み、グループ内シナジーを最大化する選択肢は十分現実味があると言えるでしょう。
第3位:日本農薬(4997) – 海外展開70%超の老舗、物言う株主が解消迫る
日本農薬(4997)は1928年創業の老舗農薬メーカーで、農薬専業として国内初の歴史を持つ企業です。近年はグローバル展開を積極化し、売上の7割超を海外市場が占めるまで成長しています。アジア・米州・欧州の三極体制で100ヶ国以上に製品登録を持つなど、世界規模で事業を拡大中のグローバル企業です。業績も安定しており、国内農薬トップクラスの地位を築いています。
そんな同社の親会社は化学メーカーのADEKA(旧・旭電化工業)で、現在ADEKAが50%強の株式を保有する連結子会社となっています。しかしこの親子上場関係は、過去の経緯からガバナンス面で物議を醸してきました。2018年にADEKAが日本農薬を子会社化する際、TOBと第三者割当増資を組み合わせましたが、TOB価格900円に対し増資引受価格を670円という安値に設定したため既存少数株主の利益が棄損されるとして批判が相次いだのです。さらに重要な開示資料が英語のみで提供されるなど不透明さも指摘され、市場からガバナンス体制への強い不満を招きました。
このような経緯もあって、現在物言う株主(アクティビスト)が日本農薬の親子上場問題にメスを入れ始めています。2025年4月、かの村上ファンド系の投資会社であるシティインデックスが親会社ADEKAに対し「上場子会社(具体的には日本農薬)の保有方針を検討する特別委員会の設置」を求める株主提案を行いました。これは事実上、日本農薬の親子上場を解消せよという要求です。提案に対しADEKA経営陣は直ちに反対を表明しましたが、6月開催の株主総会でもこの問題は大きな焦点となり、市場も固唾を飲んで成り行きを見守りました。
現時点でADEKA側は親子上場維持の姿勢を崩していないものの、アクティビストの影響力次第では状況が変わる可能性があります。特に日本農薬は海外売上比率が高く事業成長性も見込める一方で、株価はPBR1倍前後と割安圏にあります。仮にADEKAが経営判断として完全子会社化に踏み切れば、大きな株価プレミアムが付く余地も十分考えられます。また、親会社による統治が困難になるリスクを避けるために第三者への株式売却(親子上場解消の別ルート)も取り沙汰されるかもしれません。いずれにせよ、日本農薬は「親子上場問題」が顕在化している数少ないケースであり、今後の展開次第では思わぬM&A劇の主役となる可能性を秘めています。
第2位:イオンフィナンシャルサービス(8570) – 利益流出を嫌う親会社、金融中核を取り込むか
イオンフィナンシャルサービス(8570)は流通大手イオングループの金融事業中核を担う会社で、イオン銀行やクレジットカード事業などを展開しています。親会社のイオン本体(8267)は現在この会社の約48%の株式を保有していますが、実は半分以上は市場に出回る形で利益の約半分が外部株主に流出している状態です。イオンはグループ全体で15社以上もの上場子会社を抱えていましたが、市場から「グループ経営効率の悪さ」が課題視されてきました。そこで2024年にはイオンモールとイオンディライトの完全子会社化に踏み切り、世間を驚かせた経緯があります。
この一連の動きの中で、イオン経営陣は「グループ外部に流出する利益を最小化し、財務健全化を図る」と明言しています。まさに親子上場による弊害を正面から指摘した発言であり、次なるターゲットがイオンフィナンシャルサービスではないかと市場は注目しています。現に同社株はPBR0.6倍台、配当利回り約4%と指標面で割安感が著しく、親会社イオンにとっては「安いうちに買い増して完全子会社化したい」インセンティブが働きやすい状況です。
イオンフィナンシャルは顧客基盤やノウハウの観点でグループ戦略上欠かせない存在であり、完全子会社化によって金融事業の利益をすべてイオン本体に取り込めるメリットは計り知れません。さらに銀行・クレジットカード事業は規制対応や内部管理の面でも親子一体運営のほうが効率が良く、将来的な金融グループ再編に備える意味でも統合メリットは大きいでしょう。もっとも、実行には残り約52%の株式取得が必要で莫大な資金または株式交換を伴うため、タイミングの見極めが重要です。しかしイオンは2025年2月に基本合意を公表したイオンモールの株式交換(2025年7月完了予定)に続き、グループ再編を着々と進めています。流通業界は低収益事業の整理や収益源強化が急務なだけに、グループ全体の効率化策としてイオンフィナンシャルサービスのTOB解消が発表されても驚きではないでしょう。アクティブな株主からの評価も高まることが予想され、今後の株価には要注目の銘柄です。
第1位:日産車体(7222) – 98%親向け売上の車両メーカー、親会社再建の鍵を握る
栄えある第1位は、自動車業界から日産車体(7222)を選出しました。同社はミニバンやSUV、商用車の完成車組立を担う日産自動車グループの車両メーカーで、セレナやキャラバン、エルグランドといった日産の主要モデルを生産しています。売上高の約98%が親会社・日産向けという極めて事業一体性の高い子会社であり、社長以下経営陣も日産本体からの出向者が務めるなど、実質的に「日産の一工場」に等しい存在です。親会社の日産は現在同社株の50%を保有し筆頭株主となっています。
このように親子の結びつきが極めて強い日産車体ですが、長年にわたり親子上場の典型例として問題視されてもきました。少数株主にとって独立企業とは言い難い統治構造であり、親会社日産の意向次第で経営が左右される状況は上場企業としての独立性を欠くとの批判が絶えなかったのです。事実、ストラテジックキャピタル(SC)をはじめとするアクティビスト株主がこの問題を厳しく指摘し、2024年の株主総会では「日産車体の完全子会社化や吸収合併などを検討するよう定款に定めよ」との提案を公式に出すまでに至りました。提案は親会社である日産本体の反対により否決されましたが、SC側は3.4%の同社株を握りつつ毎年提案を続ける構えで、親子上場解消の圧力を強めています。
親会社の日産自動車にとっても、日産車体の扱いは避けて通れない経営課題となっています。というのも、現在日産は電動化対応や生産拠点再編など大規模な構造改革を推進中であり、不要な重複や非効率を排除する必要性に迫られているからです。社内には「親子上場を続ける限り構造改革の徹底が阻害される」との見方もあり、実際2025年には追浜工場の生産を九州に統合するプランも発表されました。こうした流れの中で、グループの車両生産子会社である日産車体を完全子会社化し、生産体制を一本化することは極めて合理的な選択肢と考えられます。少数株主保護の観点から見ても、現在のような親子上場を放置すれば日産自身のガバナンス評価を下げかねず、企業価値向上に逆行する可能性があります。
市場も既にその可能性を織り込み始めており、2023年末から2024年にかけて「日産車体TOB秒読み」との観測記事が日経新聞等で報じられると、同社株が急騰する場面もありました(報道当日の株価は前日比+33%の急騰)。現状公式なアナウンスこそありませんが、専門家の間では「親子上場解消の最有力候補」との声も多く、当ファンドの組入上位銘柄に日産車体が挙げられるほどです。総合的に判断して、日産車体こそが今後TOBによる完全子会社化が最も期待される親子上場銘柄だと言えるでしょう。
以上、親子上場の上場子会社からTOB完遂の期待度が高い5銘柄をランキング形式で紹介しました。どの企業も親会社との関係が深く、株式市場で割安に放置されている点が共通しています。近年は東証の改革要請やアクティビストの台頭もあり、親子上場の解消は「待ったなし」の状況です。実際に、ここで取り上げた企業群にも既に少数株主からの声や親会社側の前向きな姿勢が見られ、市場では「時間の問題ではないか」との声も聞かれます。
もっとも、TOBによる完全子会社化は親会社にとって相応の投資判断を伴う大型案件です。株式交換や買収資金の調達などハードルも存在するため、実行のタイミングや手法はケースバイケースでしょう。しかし、一度その意思決定がなされれば、株価には通常30~100%以上のプレミアムが乗ることも珍しくありません。言い換えれば、親子上場解消は少数株主にとってのサプライズ・プレゼントになり得るイベントです。
投資家としては、今回挙げたような銘柄の動向にアンテナを張りつつ、親会社側の発言や業界再編ニュースに注意を払うことが肝要でしょう。親子上場解消ブームとも言える昨今、「次のTOB候補」を先回り予想する戦略は引き続きマーケットの人気テーマとなりそうです。本記事が皆様の銘柄研究の一助となれば幸いです。

